小説『中学生の日常 ~二年六組編~』 ①

 

小説『中学生の日常 ~二年六組編~』 ①

小説『中学生の日常 ~二年六組編~』 ②

小説『中学生の日常 ~二年六組編~』 ③

小説『中学生の日常 ~二年六組編~』 ④

小説『中学生の日常 ~二年六組編~』 ⑤

小説『中学生の日常 ~二年六組編~』 ⑥

小説『中学生の日常 ~二年六組編~』 ⑦

小説『中学生の日常 ~二年六組編~』 ⑧

小説『中学生の日常 ~二年六組編~』 ⑨

小説『中学生の日常 ~二年六組編~』 ⑩

小説『中学生の日常 ~二年六組編~』 ⑪

 

 

 

「吉木死ね! 村主死ね! 武藤死ね! 小池死ね! 三田死ね!

 あいつらさっさと死んでしまえ! 何故あいつらが生きているんだ。神よ、あなたは失敗作を作った。愚かな創造主め! あいつらが、一体全体、この世に貢献できるとあなたはお思いか? 万が一! そう思ってたのなら、あなたがそいつら巻き添えにしてクズみたいに発狂して死ね!

 

 畜生! あいつら俺を馬鹿にしやがって! 吉木以外、俺より偏差値低い馬鹿共のくせに。おかしい。おかしい。おかしい!

 

 もういい、皆死ね。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!!!! 俺以外の人間、全員死ね! なんにもしないクソ教師なんて、一番早く死ね! くたばれ! 消えろハゲ! あんなヘタレめがね脂汗キモ教師が、中学生を率いることが出来るはずがない。男子のことは軽くあしらい、蓮池やら佐藤やらにセクハラまであと一歩のことを日常的にしやがるうんこ野郎が! 全校の女子全員に引かれてること、いい加減に察知しなさいバーーーーーカ! 見ててキモいんだよボケボケボケボケボケボケボケボケボケボケボケ。臭い! 吐く息がくさいキショイうわっくせおえ!

 

 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿

 

 もう無理だ・・・・。もう無理よおれ~。ねえねえまりたん、ぼくとつきあお~? だめ? だめじゃないよね~。ぼくねえ~、君を犯したいんだ~。マンコなめたいんだ~。チンコ突っ込みたいんだ~。大丈夫! 僕にかかれば、あっという間にイッちゃうからね!ちょちょいのちょいだよ。ふふふふふふふふふふふふふふ(愛笑)」

 

 

「先生。ぼくが朝練から帰ってきて教室に入ったら、ガイジ君のイスの上にこんな紙が落ちていましたー」

 朝のホームルームが始まる、少し前のこと。大勢の喋り声で、ざわつく教室内。持っている一枚の紙をピラピラさせて、吉木祐太が福井に言った。ちなみに「ガイジ」とは、障害児の略称である。

 

 福井はその紙を受け取り、かいてある文を読み、思わず顔をしかめた。

 

「あいつがか?」福井が聞いた。

 

「そうです!」

 吉木は満面の笑みで答えた。後ろには村主、武藤、小池、三田の四人が、固まって顔をくっつけて、陰湿な笑いをかみ殺していた。

 

 福井教諭はため息をついた。

 

 そして、前にニコニコしながら立っている吉木と、後ろで固まっている四人を、改めて交互に見た。福井が彼らを見るその眼は、膨大な残業を抱えたサラリーマンが、山積みにされたデスクの上の書類を見た時、こういう風になるんではないかと思わせるようなモノだった。

 

 福井は眉間にシワを寄せた。教卓の上に右肘を立てた。右手のひらを天井に向け、それに額を載せ、まぶたを閉じた。まぶたの筋肉を強く働かせたせいか、目の周りに、何本か小皺が走った。

 その状態で、ハァー、と長く息を吐いた。右手の指で、前髪を握りしめた。

 

 福井は顔を上げた。そして再び、ため息をついた。それはまるで、ゲームを買え、と子供が長時間わめいたあと、母親がするようなモノだった。

 

 ため息が終わり、福井は女子五番、佐藤幸穂の太ももに、視線を向けた。福井の眼が優しくなった。そして、口の両端が、キュッと横に伸びた。

 二秒後、福井は、目線を若い肉から逸らした。

 そして、佐藤の右隣りにある、男子十番、樹村哲哉の席に目をやり、そのまま見つめた。

 

 福井の眼に、一瞬、ゾッとするような暗い光が宿った。チッ、と舌を鳴らした。樹村哲哉は、登校時間にも関わらず、未だに教室に来ていない。

 

 福井は机から視線を外し、吉木から渡された、凄まじい文章の書かれてある紙に、眼を向けた。

 

「全校の女子全員に引かれてること、いい加減に察知しなさいバーーーーーカ! 見ててキモいんだよボケボケボケボケボケボケボケボケボケボケボケ。臭い! 吐く息がくさいキショイうわっくせおえ!」

 

 という部分に目が行った。刹那、福井は目を紙から離し、前にいる吉木祐太を、キッと睨み付けた。

 

 吉木は福井の目に気付いた。

 

 吉木の人懐っこい笑みは、薄赤色のシートに隠された、赤い文字のように、スッと消えた。吉木は真顔になった。口元が微妙に縮まり、上まぶたを二ミリほど下げた。その結果、相手を侮蔑する時の表情になった。

 

 福井は少し、たじろいだ。

 吉木は、また人懐っこい笑顔に戻った。

 

「そっか・・・・・あいつはいるのか?」

 福井は、生徒の名前を代名詞で呼んだ。

 

「いません。今日も遅刻でしょう。」

 

 吉木がそう言った。その時、登校時間を知らせるチャイムがスピーカーから流れた。

 

 二年六組の生徒には、チャイムの音が聞こえないらしい。それが鳴り終わって三十秒ほど経った今も、教室内は騒がしく、自分の席に座っている者は、四人ほどしかいない。二年六組は、他のクラスに比べて飛び抜けて、私語が多いことで有名だ。

 

「こら。席に着け。」

 弱気な福井の注意は、当然、彼らの耳に入らない。逆に、話し声がいっそう、大きくなったような気がした。

 すると吉木が、生徒の大勢いる方に体を向けた。

「おーい! ほらほら、みんな静かになろうぜ! 福井先生が困ってるよ!」

 吉木が、教壇の上に立って手をパチパチ叩きながら、大声で言った。

 

「イエース!」

 騒がしかった生徒たちが、吉木の方を見て一斉に返事をし、すぐに自分の席について、座った。

「きりーつ!」吉木が号令をかけた。

 

 三十三人の生徒が、バッ、と重厚な音を立てて、一挙に立ち上がった。

 

「礼!」「おはようございます!」三十四人全員の分厚い声で、挨拶の大合唱。

 

「着席!」ガラガラといすを引く音がし、全員が座った。

 

「それでは、先生、よろしくお願いします!」

 吉木は福井に、斜め四十五度の最敬礼をピシッと行い、福井から見て左手前の隅にある、自分の席についた。そして机の中に、例の紙を突っ込んだ。

 福井は、ほっと溜息をついた。

 

「はいおはよう。」

 彼はクラス全体を見渡して、欠席者を調べた。

 吉木の左隣にある、男子三番、小山和利の空席を確認する。

 

 福井は、一番右奥の席に座っている、女子十番、蓮池千里に視線を向けた。

 視線を受けた蓮池は、福井の目を見て、一度頷いた。それを見た福井は、視線を下に降ろして、蓮池の中学生らしい控えめな胸を一瞥したあと、真正面に顔を向け、生徒たちに向き合った。

 

 口を開いた。

「えー、今日は、欠席者はまあ・・・で、えーあいつは、家から連絡が来てないので、恐らく、えー、遅刻でしょう。えー、今日の体育は、えー水泳学習ということになっています。えー言い尽くされていることだけれども、プールに入る前と後には、えー、シャワーをしっかり浴びること。ああ、あと、出る時は水道で、えー、ちゃんと目を洗いなさい。耳に入った水は、えー、速やかに排出するように。」

 

 ここで福井は、蓮池と佐藤の二人を、さっと一瞥した。

 若干勃起した。

 

 続けて言った。

 

「えー、男女混同だから、男子は色々気を付けるように。」

 

 そう言い終わったあと、福井の顔の、血の気が失せた。体温調節の役割を果たさない、ヒヤリとした汗が多く出た。不安そうに、眼を泳がせた。ちなみに今日は、七月五日の水曜日で、最高気温は三十二度。しかしこの教室にはクーラーが設置され、今もガンガン、フル稼働している。

 

「はっはっは! 何言ってるんですか福井せんせい! まったく、面白いなあ。」

 

 そんな時、吉木が笑ってそう言った。

 

 福井の目が、パッ、と明るくなった。教卓の、物を入れる部分に右手を突っ込んで、その手をグーにして左右に振った。

 

 しかし、吉木はそう言って笑ったあと、隣の席にいる武藤の耳に、口を近づけ、声を抑えてこう言った。

 

「お前だけだろ、って感じだよな。」

 

 武藤は、教卓の後ろに立つ担任を見て、ニヤニヤ笑った。

 武藤のニヤけ顔を見て、福井は目の光を失った。腋に、不快な、汗をかいた。

「というわけで、今日も一日、頑張って下さい。」

 福井はそう言った後、早歩きで教室から出ていった。

 

 

 クラスに、大爆笑が沸き起こった。

 

 

「マジキモい! あいつ、傑作過ぎるだろ!」

 

「ああ~キモかった~。もう超ありえない! めちゃくちゃ鳥肌立ったわたし~」

 

「もう、消えた方が良いな福井氏は。俺、教育委員会に密告しようかな。」

 

「いいねいいね、一緒にしない? わたし本気だよ?」

 

 生徒たちは、心の底から湧き出たような笑顔で、朝の会の感想を言い合った。そんな時、

 

「おーい、みんな! 福井先生の悪口言うなー!」

 吉木の声だった。皆は話しを止めて、彼の方を一斉に見た。

「福井さん、良い先生じゃん。俺たちに優しいじゃないか。特に女生徒を大事にしてな。更にユーモアセンスも抜群で・・・・・くくくくく、だーーっはっはっは!」

 吉木は口をいっぱいにあけて、大声で笑った。静かになっていたクラスが、また賑やかになった。

 

 

 

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