harmony!

嫌いな自分を、嫌いなまま肯定してもらうためのメディアコンテンツ

自分の知らない体① (5年間引きこもりだった元カリスマナンパ師に教わった コミュ障改善の本質)

 

自分の知らない体①

自分の知らない体②

自分の知らない体③

自分の知らない体④

 

 

 

 

 地球を流れ、生き物を支えている水。

水はあらゆる場所を、高いところから低いところへ、重力に素直に従って、潰れず、しなやかに流れ続ける。

 

 

 目の前にある、黒く高級感のある扉の先が、彼の開く講座の会場だった。

 インターホンを押した。少し間があったあと、風がそよいだような軽い感触で、高石宏輔さんがドアが開けた。

 

 髪が少しかかった目と、読書好きの内向的な青年のように控えめな微笑み。薄い灰色のシャツに、黒くゆったりとしたサルエルパンツを履いて、肩と肘へ余計な力を入れずに、水の流れのように落ちついていて、質が良く、彼は、彼として在った。

 

 

 巷ではコミュニケーションが上手くないとされる人を、「コミュニケーションに障害のある人」、略して「コミュ障」と呼ぶ(正式な病名である『コミュニケーション障害』とは違う言葉)。

 

 コミュ障の症状は様々。職場の人や学校の同級生と仲良くなれない、「気を遣えないね」とよく言われる、目を見て話せない、周りから疎まれる、いじめられる…など。友達が少なく、就業後や休日も一緒に遊べる人がいないので、部屋に引きこもる人もいる。

 

 世の中にはたくさんのコミュ障がいる。人は、なぜ、コミュ障になるのだろうか。コミュ障を克服する方法としては、人とたくさん話すように心がけたり、緊張しないようにおまじないをかけたりすることが挙げられている。僕も周りからコミュ障コミュ障と揶揄されてきた。ゆえに、コミュ障を治さなければならないと思って、ネットや本に書いてあった改善方法をいくつか試してみた。

 

 僕は内向的で、元々多くの人と話をしたくないタイプで、気の合う少数の人と、数時間、深い話を交わすことが好きだった。しかし、そんな自分を直そうと、色々な場所に顔を出して、ためらう体を叱咤してエイッと初対面の人に何度も話しかけてみた。本に書いてあったテクニックを試したり、帰りの電車ではその日の会話を振り返って一人反省会を開き、スマートフォンで[空気読む 方法]などと検索し、更なる改善策を調べた。

 

 そんなことを1年くらい続けて、少しくらい会話が上達するかと思いきや、コミュニケーションの悩みが全然解消されなかった。それどころか、悪化した。なめらかな会話を10往復以上続けることが目標だったのに、むしろ吃ってきた。誰かの提示したノウハウ通りに従おうとすればするほど、自分の言動が本当の自分から離れていくようだった。

 

 何かが違うぞと僕は思った。このままだと、更におかしくなっていくだけではないか。

 

 カウンセラー、高石宏輔さんの存在を知ったのは、2015年5月、僕が20歳の頃だった。彼は、ほんの数年前にカリスマナンパ師として名を馳せた人物で、現在は1日1人限定でカウンセリングをしている。

 

 高石さんに興味を持って半年ほど経って、僕はこう思うようになる。「コミュ障」という言葉が蔓延している世の中で、高石さんのナンパとカウンセリングの経験から抽出された、コミュニケーション改善に関する考えと指導法は、コミュ障という言葉を絶滅させる可能性を秘めている。

 

 

 高石さんは今、ナンパをしていないが、現役時代は百人以上の女性とセックスした。一時期はキャバクラや風俗のスカウトの職に就き、1日百人以上の女性に声をかけた。

 

 ナンパ師と聞くと、僕は、チャラついた感じや、金髪、ピアスなどのイメージが浮かんだ。しかし、インターホンを押したあとに現れた彼の物静かで落ちついた様子は、僕の抱くカリスマナンパ師のイメージからかけ離れていた。話し方も流暢で押しの強い感じではなく、ゆっくりと、ときに黙り込んだりしながら話す。世間一般で思い描かれる、話すのが得意そうな社交的な人間ではない。

 

 しかし、彼の静かな低い声は心に直接響き、ゆったりとした品の良い仕草からは、包容力と色気が感じられた。百戦錬磨のナンパ経験を物語る不思議な色気があった。

 

 慶應を中退し、プルースト『失われた時を求めて』を愛読し、高級感のあるデザインの落ちついたファッションを好む彼は、信じられない話だが元々女性恐怖症で、20歳から25歳までは鬱とパニック障害で引きこもっていたという。学生時代は本ばかり読んで、女の子とどう接していいのか分からず、目が合うと、怖くてすぐに目をそらしていた。

 

 そんな、ナンパに向いてなさそうな彼は、なぜ、ナンパを始めたのだろうか。

 

 その理由は、彼が語るその時々によって変わっていく。以前、僕が彼の取材記事を書かせていただいたときは、「カウンセラーとしての腕を磨くためだった」と言っていた。ある対談では、「自分が間違っていないことを証明するためだった」と言った。また、彼が、自身のナンパ体験を物語として綴った小説で、物語の彼が付き合っている女性が、彼に、「いつまでそんなことしてるつもりなの?」と問うシーンがあったのだが、そのとき、彼はうつむき、黙り込み、絞り出すように「いや……」と言ったあと、「僕も本当はしたくてしてるわけじゃない。やめたいのにやらなきゃいけない気がしてやめられないんだよ。」と、涙ながらに答えていた。

 

 彼は女性との会話の中で、様々なカウンセリングの技術を試した。女性の話をじっくりと傾聴しながら関係性を深めたり、声をかける際、体の動きから女性の声を想像して、その声色に合わせた声で話しかけた。拒絶しようとしている女性に対し「貶す」のと「褒める」のを交互に繰り返し、強引に心を開かせセックスに持ち込んだ。数百人の女性に催眠をかけて、腕を磨いた。そんな試行錯誤の経過で、コミュニケーション改善に関する独自の考えを持つようになる。

 

 2015年現在、高石さんは、カウンセリング業と並行して、定期的にコミュニケーション改善に関する講座を開催している。そこでは、彼の考えに基づいた独特な手法で、講習生を指導している。講座は全部で5種類あり、その一つに『ラポール(※)と身体知』という、いわば入門編の講座がある。

 

※「相手と関係性を築く」という意味のカウンセリング用語。

 

 2015年の初夏、僕は『ラポールと身体知』を受講した。

 

 高石さんは過去にブログで「自分は気が狂っている」という意味の発言を何度もしており、ナンパをしていた過去の自分を手放しに肯定しておらず、彼の周りにいたナンパ師の多くを嫌悪していた。僕は、そんな彼の過去のナンパの経験を羨ましく思い、尊敬していた。僕が過去に心を傷つけられ、いつか倒そうと誓ったが、未だに倒し方がわからない女性たちも彼の手にかかれば、心と体に二度と消えない傷を負わせることだってできたかもしれない。

 

 ただ、高石さんのブログに『ナンパマニュアル』という、彼流のナンパ指南の記事があったのだが(今は、当時彼が書いていた他の多くのブログ記事と共に削除されている)、初めに、こんな文章があった。

 

「ここには誰でも今すぐ女の子を落とせるテクニックなどはない。ただ、自分を見つめて、より他人を感じられるためのステップがあるに過ぎないから、テクニックを望んでいる人には意味がないものだろう。」

 

 19時に、講座がはじまった。コミュニケーションの講座と聞くと、二人一組になって会話のロールプレイングをやる、みたいなことを想像されるかもしれない。しかし、想像していたものとは全く違った。僕と他の講習生5人は、両腕を前後に振る「スワイショウ」という気功の基礎動作を2時間ぶっ通しで行った。

 

 会場は7人入っても余裕がある広い空間だった。灰色の絨毯に、天井にはオレンジ色のわずかな照明、眠気を誘発するような落ち着いた暗さの中で静かなピアノの曲が流れていた。そんな場所で、僕ら講習生が無言でひたすら腕を振っている光景はかなり怪しいセミナーみたいだった。

 

 

 

 

 

kytekona.hatenablog.com